ガラスの仮面SS【梅静052】 第3章 確かな息吹 (9) 1984年春

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会見終了後 亜弓の家へ

成城にある亜弓の家はいわゆる豪邸であった。この高級住宅地に高い塀と大きな門。門が開き、車が敷地内に滑り込んでいくとき、思わず、マヤと麗は同時に、

「お城!」

と声を合わせて言った。思わず、3人で顔を見合わせて笑った。

「さあ。どうぞ。」

と亜弓がドアを開けると、姫川夫妻が出迎えるために立って待っていた。

「まぁ~、ヘレン以来よね。マヤさん。そして、麗さん。ようこそいらっしゃいました。」

と歌子が一声甲高く嬉しそうに迎えた。姫川監督は、ちょっと照れたようにしながら、

「亜弓が友達を連れてくるのは初めて。いやあ、いつもすれちがい。娘にも振られてばっかり…。それなのに、友達、若いお嬢さん方を連れてきて、うちがこんなに華やかになるなんて。こんな日が来るなんて!!」

とおおげさに言った。

「パパ。おおげさですよ。さあ、マヤさん、麗さん、どうぞ。こちらよ。」

とダイニングに二人を促した。あちこちに立派な調度品が置かれ、ダイニングに入る前には数々の盾やトロフィーが置かれていた。それを麗が凝視していると、

「おかげさまで、よ。本当に周りに支えられて。でも次はあなたたちの番ね。」

と歌子がほほ笑み、麗の背中に手を添え、ダイニングに行くように促した。

美しい皿に盛りつけられた料理がテーブルに所狭しと並べられていた。

「お二人が何がお好きかわからなかったから。それに、今日まで、亜弓も、マヤさんも、ずっと緊張の日々だったと思うので、身体に優しいものを中心にアラカルトで準備しました。さあ、おかけになって。」

「みんな、未成年じゃないし、今日は、紅天女に一区切りの乾杯をしないか?とっておきのシャンパンがあるんだよ。」

と監督が言った。亜弓が、

「まあ、ステキ。マヤさん、お酒いけるの?麗さんは?」

と二人に向かって言うと、マヤは

「んー、先日、ワインを飲んでみました。それ以外は飲んだことあまりないです。」

と答え、麗は

「ふふっ。実は私は日本酒が好きで…。」

とペロッと舌を出して笑って見せた。すると監督が、

「おおっ。頼もしいね。我が家では日本酒に付き合ってくれる淑女はいないんだよ。今日は楽しみだ。では、まず、シャンパンで。」

と言い、立ちあがって、冷やしていたシャンパンを景気よく「パンっ」と音を立てながら開けた。美しいシャンパングラスに注ぎ、

「さ。梅乃さんも乾杯はいっしょに。」

といい、6人でグラスをあわせ

「かんぱーい」

と声をあわせて、みな、口につけた。

「うん。いいカンジだね。」

と監督が言い、歌子と亜弓はうなずいた。マヤはよくわからないが、舌触りがよいので、気分が良くなった。麗は、「ひょおー。こういうの初めて飲んだ。」と嬉しそうに言った。

「さあ、召し上がって。でもその前にひとつ。」

と歌子は言った。

「マヤさん、おめでとう。そして亜弓。亜弓もおめでとう。私の二人のヘレンが、私がかなえられなかった紅天女を手にした。感激だわ。本当におめでとう。」

歌子は少し、うるうるしていた。すぐに監督が拍手をして、

「さあ。いただこう。歌子と梅乃さん、今日、がんばって準備したからね。」

と、目の前に並ぶ料理に手を付けるように勧めた。

料理は大皿にいろいろ盛られており、手元にはとりわけ用の皿が置かれていた。このようなスタイルの食事をいただくのはマヤは初めてだったので、多少もじもじしていた。

「おうちだと思って。気楽にすごしてくださいね。」

と亜弓が言ったが、すかさずマヤが、

「こんな大きなおうち、住んだことも、入ったこともないから。もう亜弓さんたら~。でも豪華で、わくわくしちゃう。そう言えば、今日は色々あったから、あまり食べていないからおなかペコペコ!いただきまーす。」

と弾んだ声で言った。

食事はにこやかに進んだ。亜弓がマヤと出会ってから、ライバルと認め、競い、時にケンカをしたことがあったことも話した。歌子も監督も、びっくりしてみせた。

「ほう。亜弓がそれほどさらけ出せる友人に恵まれていたとは知らなかった。ありがとう、マヤさん。」

マヤは「いえいえ、そんな」と言いながら、両手を振って謙遜してみせた。

「あたしは、何回か亜弓さんに助けられています。お仕事をいただけなくなったときも、そして、あたしを信じていてくれたときも。知り合って、もうすぐ10年かな。次の10年は何かあたしが亜弓さんにできることがあればいいなって思っています。できるかな?」

と言って、ペロッと舌を出した。

「これからの紅天女は二人が作るものよ。」

と歌子は言った。

「マヤさん、麗さん、あなたたちは、映画は興味ないの?」

と監督が話題を変えた。

「マヤは、きっとこれからお仕事、来るんじゃないかと思っています。実際、もう狙っているところもあるみたいなことも聞こえてきます。私は、うーん。正直言うと、役者であることは好きだけれども、マヤや亜弓さんのようにはできないし、伸びしろも限度があるのかなとは思う部分あります…。ただ、映画は一度はやってみたい。そして、映画やドラマを作ることも最近興味が出てきて。」

と麗が言った。マヤは初めて聞く麗の想いに驚いた。

「それに、ここのところ、ずっと、そうシアターXのことがあって、沖縄もマヤと一緒で、帰ってきてからも一緒。大都の冴子さんの仕事も見る機会も増えて、自分は役者として表に出るよりも、作ったり、考えたり、お世話したりが合ってるかもしれないとも感じています。こういう、役者からまた違う方向に興味が向くことってあるのですか?なにか、うまく言えないけれど、役者から逃げる負け犬みたいにも思ってみたりして。」

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