ガラスの仮面SS【梅静054】 第3章 確かな息吹 (11) 1984年春

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亜弓の家をあとにして…

亜弓さんの家から、久しぶりにアパートに戻ると、麗の酔いもすっかり冷めていた。

「ホテルもよかったけれど、ここもいいね。ここが我が家だね!」

とマヤがことのほか元気に言った。

すると麗はマヤとは異なり真剣なまなざしで「話があるんだ。」と言った。

マヤが、「どうしたの?」と答えると、麗が、「いくつかある。今日、発表の日に話さなければならないと思うから、今、話したい。いいかな?」と言った。

ゆっくりと麗は話始めた。

「マヤ。おめでとう。はじめに候補者となって紅天女を争ったときとはまた異なる形になったけれど、マヤはこれから何十年も紅天女を担う人に選ばれたんだよ。おめでとう。本当におめでとう。

初めて会ってから10年くらいになるよね。途中色々あったけれど、マヤと会えてよかったし、今日、マヤが選ばれたことは自分のことのようにうれしいよ。おめでとう。」

麗は少し涙ぐんでいた。

「ありがとう。麗のおかげだよ。ずっとここのところはあたしのために動いてくれて。」

「うん。いいんだ。それより、まず、お祝い。これを言いたかった。本当にうれしいんだ。マヤが選ばれたことが。選ばれても選ばれなくても同じと言えば同じだけれど、この長い闘いにひとつ決着はついた。それでね…。」

「うん。それで…?」

「うん、まず、簡単な話からね。ここから引っ越すよ。ここだと、いろいろ動く時、時間もちょっと余分にかかるし、なんと言っても、誰でも入ってこれる家だから安全上の心配がある。だから、引っ越す。」

「えー、いきなりだけれど、どこに引っ越すか、あてはあるの?」

「うん。ある。ほぼ決めてある。あのホテル、滞在したホテルの近くにあるマンションにする。これは、冴子さんと相談して選んだ。」

「ああ、そうなのね。ありがとう。」

マヤはちょっといたずらっぽい目で麗を覗き込んで続けた。

「ねぇ、それで、麗はいつの間にか水城さんと親しくなっている。冴子さんって呼ぶなんて。」

「うん。まあ。その話も後からするよ。今は引っ越しの話ね。」

麗は受け流して続ける。

「マヤは第1期は出番はないから、少しゆっくりできるけれど、そこにもう仕事のオファーは来ているんだ。マヤはまだマネージメント会社決めてない。

黒沼さんはそういうことには手を出さない、それどころか、あてにならない人だから、オファーはてっとり早く大都に来ている。それを社長から冴子さんに担当するようにということで、話は来ている。社長は、冴子さんがマヤを個人的にサポートすることは知っているからね。この間言ったように。」

「うん。それは出世払いで、ということでお願いしたことだよね。」

「そう。その話だよ。それで、今日、監督とも話していて決心は固まったんだけれど、私はしばらくはマヤを世話する。マネージメントの方をやろうと思うんだ。冴子さんと私で。」

「え?役者は?」

「うん、辞めるわけではないよ。ただ、今はちょうどスケジュールは空いているし、次の予定も入っていない。その間、冴子さんの指示のもと、マヤのマネージャーをやろうと思う。どうかな?」

「どうかなって、あたしは麗がそばにいてくれるならば言うことはないけれど…。麗は、お芝居やらなくていいの?バイトは?いいの?」

「うん。そのことも全部含めて冴子さんと話した。

それで、会社にすることまではまだ資金の問題もあるし、いろいろあるから、個人として、やることがよいだろう、と。ゆくゆくマヤの仕事が増えたり、また私もちがうお仕事をするようになってからでも会社組織にすればいいんじゃないかと教えてもらったんだ。

それに、今日の監督との話で、芝居を作るほうに向いているんじゃないかとも思ってね。私は、一人父親に反発して家を出てきてしまったから、なにかアドバイスをくれる人も、相談できる人もいなかったけれど、ここのところでずい分変わった気がするんだ。それもマヤのおかげだけれどね。それで、マネージャーは素人だけれど、冴子さんに教えてもらいながらやっていこうと思うんだ。マヤと二人三脚で。」

「引っ越しと、マネージャーの話よね。麗があたしのマネージャーになるっていうのはすごく安心できる。でもお給料払えるのかな?あたしが稼がないといけないでしょう?」

「そこも冴子さんと相談している。試算もして、今来ているオファーも、今後の紅天女の兼ね合いで受けていくようにしていけるのではないかという話だよ。」

「それが麗にとって良いことなのかどうか。あたしは正直わからないけれど、麗がそれがいいというならば、やってみる。挑戦してみたい。いろいろなお仕事も挑戦したい。」

「そういうと思った。最近のマヤは何かちがう。前のマヤじゃない。意識を持って挑戦しようとしている。だから私もやってみようと思った。」

「うん。引っ越しもわかった。がんばってお仕事をしなきゃ。」

「オファーはテレビドラマが来ているみたいだよ、それ以外にもいろいろと。」

「えー、テレビドラマ!!できるかなぁ。ちょっとトラウマあるわー。」

「そう言うと思った。そのことも考えて、引っ越しなんだよね。少し自由はなくなるよ。もう単発のバイトもできない。冴子さんからももう一度念押しあると思うけれど、近寄らせる人は選ばなきゃいけない。いいね。」

「うん…。」

「それで、明日、スタジオ行くでしょ、その前に冴子さん、一回こっち来るって。明日以降のスケジュールの確認もかねて。たぶん、第2期以降の話もある程度できあがっていて、それも頭の中にあるんじゃないかな。」

「ふーん。たくさんあっていろいろ大変!」

「そうだよ。そしてここからはびっくりすると思うけれど。ここには、このアパートには、美奈と堀田さんが一緒に住むって。いよいよ、ゴール目前だよ。まあ、一緒といっても、一角獣はろくなところに住んでない人もいるから、二人っきりというわけにはいかないだろうけれどね。」

「えー。いよいよ!!あの二人、もう付き合ってるの?」

「うん、だいぶ前からだよ。マヤは忙しかったから気づかなかったかもしれないけれど、かなり前から。」

「わー、よかったー。ちょっとうれしいね。」

「うん。うれしいよ。あ、あ、あとね…。」

「うん?あと?」

「私、冴子さんのこと、真剣に好きなんだ。女性同士だけれど、告白もしちゃった。」

「えーーーーーー、どういうこと?」

「うん。今までもあまり男性に興味なかったんだけれど、冴子さんだけは別で。ちょっと年上だけれど、素敵だし、安心できるし、かっこいいし、色々知ってるし。ボヤのあたりから、話す機会も増えて。それで、やっぱり伝えたくなってね。」

「麗、顔、真っ赤だよ。」

「うん、あついよ、ほてってきちゃう。伝えてね。それで、なんというか、なるべく一緒に行動しましょう、っていう話までは進んだ。冴子さんは、仕事が恋人で、とくにお付き合いしている人はいない。だけど、私とは一緒に行動するところから始めようって。

だから、引越し先、実は、冴子さんも同じマンションに部屋借りることになってる。マヤと私と冴子さんで3室借りる。お金はかかるけれど、先行投資だと言ってる。大都からお金がでてるかどうかは何もいってないけれど、だからと言ってマヤが大都に所属しなければならないということじゃないって。そこは強く言っていた。だから、私がマネージャーになって二人で二人三脚。冴子さんはアドバイスをくれることになると思う。」

「すごーい。そこまで話が進んでるんだ。あたし、気づかなかった。今日、歌子さんがいうまで気づかなかったし。でも、麗、好きな人に会えてよかったね。麗のおまえさまに会えたんだね。うれしい。」

「マヤ、お祝いしてくれるの?レズと言ってバカにしたりしないの?」

「ん?なんのこと?別にいいじゃない。好きなのでしょう?よかったよ。」

「ありがとう。マヤ。でも、結構ハードな宿題も出されているよ。冴子さんを仕事にとられないように、私も頑張らないと。マネージメントのやり方は、少し大都で訓練してもらうし、それ以外にも、役者としての力量が落ちないように努力することと、脚本や演出にも詳しくなるようにと言われている。」

「今より大変になるんだね。フフフ。」

「うん。でも、マヤがんばろうね。話はこれくらいだよ。明日早いから寝ようか。」

「そうだね。今日はうれしいことがたくさんあった一日だった。見て、麗。これ、歌子さんにもらったの。イヤリング。アメジストだって。きれいな紫いろ。あたしにとって一番響くいろ。紫。」

「うん。素敵だね。マヤにとって紫は特別だもんね。ずっと励ましてくれる色だからね。」

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