ガラスの仮面SS【梅静047】 第3章 確かな息吹 (4) 1984年春

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク

紅天女決定会見後ミーティング

「結局のところ、上演権をどちらかに、でスタートしたこの一連の話、話題作りでしかなかったということだよなぁ。これは月影さんの思惑かい?」

会見後の関係者ミーティングでいの一番に口を開いたのは小野寺だった。

「費用は負担し、ギャラはもらっているけれど、だからって、これだけ人を振り回していいんですか、って話だよ。結果は覆せないことはわかるがね、俺は不満だらけだ。」

赤目はずっと目を閉じたまま動かずにいた。黒沼は小野寺の言葉を受け、イライラをかくせずに、

「あんたっ、なにいっ」

と大声を出したところに、千草がさえぎって入った。

「小野寺さんの愚痴を聞くためにこの場があるのではありません。始めます。よろしいですね。」

有無を言わさせない声のトーンであった。。

「先ほどの、理事長よりのお話に、補足いたします。」

明日より、小野寺組のみなさんには、3月3日開幕に向け、劇を仕上げて頂きます。試演の内容はすばらしかった。私が手を加えるところはありません。原作、元の脚本に忠実で、なおかつ美しい。そのままお願いいたします。道具に関しても、試演の内容で十分なようですね。1日1公演、ひと月休みなしでお願いします。」

小野寺は不満な様子を隠さないながらも、千草からの評価に対しては満足している様子だった。

そこに、真澄が割って入った。

「ポスター、宣伝ビデオなど、ここ数日でまとめなければならないので、その点、小野寺組のみなさんには心得ておいてほしい。これから3月の千秋楽までは自由な時間はないと思ってください。大都のシアターのこけら落としでもありますから、絶対的な成功が求められている。いいですね。」

「わかってますよ。素人じゃあるまいし。」

と小野寺がまたもや悪態をついた。

「大切なことですが、この第1期公演は小野寺組のメンバー、現行メンバーそのままでひと月やり切っていただきます。繰り返しになりますが、みなさん、健康管理や、その他もろもろ身辺に関してもクリーンでいてください。ギャラに関しては、ご不満がないものを用意するよう努めますが、こけら落としの名誉あるメンバーということも含みおいてください。みなさんの今後の演劇人生の一つのポイントになるものにしていきましょう。」

千草は続ける。

「そして、気になる第2期以降について。これは、黒沼組でいくのか、あるいは、混合メンバーで行くのか。みなさんのスケジュール調整もあわせて、2週間程度で決定します。人によっては、1日1公演をこなしながら、第2期に向かっての準備もする人が出てくるケースもあります。よろしいでしょうか。」

「そして、マヤ、黒沼組のみなさん。あなたがたの試演もすばらしかった。原作からさらに一歩、なにか、紅天女の違う顔を見るような躍動感のある舞台でした。紅天女がこういう顔を持った演劇だとは今まで思ったことがないくらい。とても評価しています。良いものを見せて頂きました。マヤも候補者ではなく、決定よ。選ばれたのはあなたよ。おめでとう。」

「しかし、第1期としてあなた方の紅天女を世に送り出すことは、申し訳ないけれど、個人的な感情で…。私はどうしてもできませんでした。私ごとですけれど、私の愛した人が作ったものがなにか違うものになってしまうようで…。委員会を作ると言っておきながら、私も弱い人間です。私情を挟んでしまった。紅天女が育って行くことがこわいんだわ。でもわかってはいます。本当にごめんなさい。1回だけでもいいから、我がままを通させてもらいました。マヤ、亜弓さん、わかってくださいね。そして、亜弓さん、よろしくお願いします。」

一同静まり返り、口をはさむ者はいない。

「つきましては、黒沼さん、貴方には、今回の演出も含め、いくつもの顔をもつ紅天女を作るために、保存委員会のメンバーになっていただきたいの。そして、桜小路さんも。それで、紅天女を育て、続けていくことに力を貸していただきたいの。考えてみていただけませんか?これは正式要請です。」

一同は静まり返った。そこにまた小野寺が口をはさんだ。

「結局そこじゃないですか。仲良しごっこなら始めから競う必要があったのか、ということですよ。まあ、いいですよ。第1期はこの私が演出で、主演は日本最強の姫川亜弓と赤目慶。豪華な布陣で最高のものをお見せしますよ。」

千草は小野寺に応答することなく続けた。

「個別の契約、スケジュール調整等ありますから、マネージメント会社と含めて、個別に話を進めていきますね。小野寺さん、黒沼さん、今日いらしていないそれぞれの役者に関しては、第2期以降はどうしていくか、それは話し合って決めていきましょう。よろしいでしょうか。」

「あの、僭越ですが、よろしいでしょうか。」

桜小路が手をあげて話した。

「ええ、どうぞ。」

「あの、僕は、この試演までの機会を与えていただいたことを感謝しています。黒沼さんに指導を受け、僕なりに一真を演じて、その、相手は赤目さんというベテラン男優さんで、どうすればいいものか、と自信をなくしたりもしましたが、得るものがありました。この紅天女が続いていくこと、僕なりに何かやれることがあるならばと…。」

「ただ、今、この段階では漠然としていて、今、月影先生からのお話も、理屈は分かる気がしても、描ききれないので、一度話す機会が欲しいと、それも早い段階で。」

「まあ。まさにそういう話なのですよ。それで、ごめんなさいね、桜小路さん、ちょっとあなたのお話に乗じさせていただきますが、今日は、演出のお二人と、男優のお二人、これから残っていただけるかしら、とお願いをしようと思っていましたの。」

「ああ、そうですか。すみません、余計な口を挟んでしまって。」

「いいのよ。では、これで、いったん解散。小野寺組はすぐに準備にかからないといけないでしょうから、先にお二人、別室にきていただけますかしら。黒沼さんと桜小路さんはお待ちになっていて。」

といい、小野寺、赤目、理事長、千草、そして、真澄は部屋を出た。

「じゃあ、北島。お前は今日は帰っていいぞ。お互い連絡し合おう。明日、いったんスタジオに落ち合おう。午前10時にしよう。いいか?」

「はい。わかりました。では今日は失礼します。」

コメント

タイトルとURLをコピーしました