ガラスの仮面SS【梅静056】 第3章 確かな息吹 (13) 1984年春

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会見翌日 朝 キッズスタジオ

マヤと麗がスタジオに着いた時には、黒沼、桜小路、速水、水城が既に揃っていて、話し合いをしていた。

「そこまで考えてくれているとはな。」

黒沼は満足げに真澄に向かって言った。

「はい。正直申して彼ら彼女らにはなかなか出番は来ない。小野寺組はみんな第1期に向けて動き出した。しかし、黒沼組の主役ではないキャスティングのみんなは宙ぶらりんです。誤解を恐れずに言うならば、『この人じゃなければ成り立たない』というメンバーではない。代りはいる、ということです。彼ら彼女らの実力ではなく、ね。

つまりいつになるかわからない。いつになるかわからない舞台を待てと言うわけにも行きませんからね。実力のある方もいますから、しばらく決まらない状態で拘束するわけにはいきませんよ。黒沼さん、桜小路さん、北島さんは委員会からある程度の報酬なりを考えることもできますが、それ以外のみなさんは正直微妙でしょう。ならば、大都で今オファーできるものを先に提示して、その中でみなさんに考えていただくほうが公平ではないかと思いましてね。これがリストです。もちろんオファーする側の意見もありますから、うまくマッチングできるとは確約できませんが。」

「若社長さんよ。さすがだ。俺も昨日からそのことはずっと気になっていた。そこまで手を打ってくれるとは感謝しかない。」

と黒沼は深々と頭を下げた。

「あ、僕は。その委員会というのでは、どうしたらいいのでしょうか?」

「桜小路くんは、たぶん、いや、ほぼ決まりで、第2期は出演でしょう。すぐに準備に入る必要がある。商業的なことだけを考えてばかりいるとまた金の亡者と言われそうですが、単純に良いものを見せるために第1期を小野寺組にお願いしているわけではありませんから。さまざまな要因で、第1期は姫川さんが阿古夜です。そして、桜小路さんは、第2期以降は非常に高い確率で出演になるでしょう。」

「ということは、姫川さんと共演ということですか?」

「でしょう。今から一真役をオーディションしても、君がやる一真に敵う者はいないでしょう。名誉欲に駆られて出てくるやつは大したことがないでしょう。赤目さんが1期で終わることは決まりだ。よって2期以降の桜小路さんの出番は多いでしょう。体力つけておいてください。」

真澄はやや事務的に言った。冴子がすかさず声を挟む。

「黒沼さんは大都をお嫌いかもしれませんが、このような話は大都の最も得意とするところ。餅は餅屋です。主役級のお二人はもう仕事に困るということはないでしょうが、そのほかの方は違いますでしょう。そこをしっかりケアしてあげたいと思っても黒沼さんにはそのお時間はありません。ならば大都が代ってお役にたてればいいという考えです。黒沼さん自身も大都に所属されたらいかがでしょうか?フフフ。お嫌かもしれませんが。」

「いや、それは、素直に言葉を受け取る。紅天女は主役のものだけではない。昨日までの流れではっきりわかった。黒沼組全員がステージに立てるというわけではないということは痛感した。柱には紅天女を残して続けていくことがあるということだ。他は後回しにされる。

俺が大都の世話になるならないは即答はできない。しかし、主役ではない黒沼組には仕事も、それも役者での仕事をさせてやりきれないだろう。ありがたい提案かもしれない。」

黒沼がいつになく素直に受け答えること様子を不思議な様子でマヤは見つめた。

「あ。もう来てたのか。」

マヤがスタジオに到着してからすでに数分たつのに話している面々は初めてマヤと麗の存在に気付いた。真澄は元気そうなマヤに一瞬やさしいまなざしを向けたがすぐにビジネスマン速水の顔に戻った。

水城がすくっと立って、場を仕切りだした。

「おはよう。マヤさん、麗さん。たまたま昨晩連絡がついたので男性陣には早く来ていただいて、お話をしていたの。黒沼組のみなさんの今後のことについて。あのね、役者さんが知らないところでは色々と動いているの。大都が黒沼組を仕切るわけではないのよ、もちろん。ただ、演劇協会扱いということだったから、具体的なオファーは大都に打診が来ていることが多いの。芸能界はそう言うところよ。みんな目をぎらぎらさせている。でも安心して、もちろん、なにもすすめてはいないわ。あくまでも受付箱の扱いよ。」

立て板に水のように話す水城にやや圧倒されたマヤは口をぽかんとあけていた。麗がマヤの肩をポンと叩いて「座ろうか」と促してはじめて動いた。

「黒沼組は第1期はノータッチ。それは決まりよ。保存委員会としてもすぐに動きはないの。ただし、黒沼さんと桜小路さんは、第2期からは間違いなく出番がある。特に桜小路さんは舞台に立つことになるわ。赤目さんが第1期だけだから。昨日お伝えしたとおり、赤目さんは第1期で紅天女からは離れる。

マヤさんにははっきりとはお伝えしていなかったけれど、小野寺さんも第1期で離れる意思を昨日におわせているの。どういうご都合かしらね?でも、その理由はさておき、こちらの男性陣は間違いなく第2期は出番がありそうなの。特に桜小路さんね。」

桜小路は多少目を泳がせている。数日前のマヤから言われた「自分の一真は桜小路くん」という言葉を考えているのだろう。お構いなしに水城は続ける。

「そして、マヤさん。大都には、あなた、そう女優北島マヤに対して「すぐにでも」というオファーが届いているの。ドラマや映画、舞台も来ているわ。」

「えっ。あたしに?そんなに?」

「ええ。そのことは後から話をしますわ。そして、これは決して誤解してほしくないのだけれど、月影さんが第2期も亜弓さんを阿古夜に、と内々で希望しているの。それには、応えたいという思いを理事長も持っているわ。」

「月影先生が、第1期だけではなく、第2期も亜弓さんで、と…。」

「ええ。月影先生のお考えは、直接あとから伺うといいわ。それで、その要因をいろいろと考えると、こうなったの。」

と、言い、水城は真澄を見た。真澄が、水城からの話を続けた。

「ちょうど、お二人が来る前に、今、水城くんからの話をした。そして、こちらの男性2人とも、第2期に向けすぐにでも姫川さんとの稽古を準備するように依頼した。黒沼組の他のメンバーにはオファーをいくつか用意している話もした。」

「そして、ここも大切なことだが、水城くんが、北島さんのマネージメントを引き受けてくれることも伝えた。大都としてではないが、水城くんは大都の社員であることにはちがいない。そして、青木さんが役者をいったん休止して、北島さんのマネージメントを手伝うことも話してある。青木さん、そうだよね。」

と麗にむかって真澄は同意を求めた。麗はうんうんとうなずいた。

「あの。大都ではなく、北島マヤ個人をマネージメントするということです。そこは、誤解しないでください。速水社長を前に言うのは失礼かも知れませんが、すみません。はっきりしておかないと。」

と麗が言った。黒沼も桜小路もその点は心得ているようでうんうんとうなずいた。

「そうだ。北島、お前はマネージメントしてもらうと聞いたぞ。ちょっと気恥ずかしいかもしれないが、しっかりやってもらうほうがいい。以前のこともあるし、お前はしばらくだれかに守ってもらいながらやらないと、うっかりがある。俺も賛成だ。それにしても、お前、すごいオファー来ているぞ。聞いて驚くな。ははは。」

と黒沼が割って入った。すると水城が目くばせをして黒沼を制しながら言った。

「ええ。具体的な話はあとでするけれど、まず、マヤさん。その前に、あなたに確認したいの。」

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