ガラスの仮面SS【梅静049】 第3章 確かな息吹 (6) 1984年春

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会見後組別ミーティング 小野寺組 つづき

退室し、少し歩いた廊下に立ち止まって、小野寺はぶつぶつ言い始めた。

「おもしろくない、おもしろくない。くそっ。あの平良のグズ野郎。みっともなく捕獲されやがって。」

ここからは一人で思案を始めた。

いや、待てよ。本当に速水が保護したのか?ウソかもしれない。たんに逃げただけで、実は、速水のところにいるとは限らない。

それに、あのばあさんが俺の演出を褒めているじゃないか。俺はまんざらじゃない。実力者だ。第1期には必要な人間だ。あの委員会にも入ってやってもいい。ん?待てよ。なぜ、黒沼と桜小路の名前上がっているのに、俺は呼ばれなかったのか?まあいい、どうせ、くだらない仕事だろうから、あとからおいしいところだけいただけばよいだけだ。

しかし、とにかく早く答えを出さないといけないな。若社長さんは短気だからな。それにしても、平良め、みすみす捕まるとは何事だ。小遣いをケチったのがあだか?まあいい。

俺も第1期で抜けると言っておこう。それで、あとはうやむやにすればいい。オンディーヌに専念するのもテだ。給料分だけ働けば、あとは、ビデオの印税もあるだろうし、悠々自適だ。

「よし。」

ここまで思って、出た部屋に戻り、度ノックし、ドアを開けた。

「私も第1期で紅天女の演出は辞退しますよ。それでいいでしょう?心を入れ替えますから、第1期をやらせてくださいよ。それで、第1期を観て決めてくださいよ。オンディーヌの代表としての仕事も今以上に集中します。紅天女、次世代も私が育成することになるかもしれない。それで文句ないだろう?あんたたちは紅天女に傷がつかなければそれでいいのだろうからな。」

真澄は冷ややかに答えた。

「第1期で、ですか。まあいいでしょう。その間よけいなことや、よけいなおしゃべりはいけませんよ。あなたの首を締めますよ、小野寺さん。そして、もう一つ念を押しますが、オンディーヌ。専念もよいでしょうが、お金の遣い方も忘れないでくださいよ。会計のチェック、やっていますから。説明できないものがザクザクでてると報告があるようですよ。小野寺さんの所為じゃないかもしれませんけれどね。その場しのぎは通用しません。」

会見後組別ミーティング 黒沼組


「なぜ、俺たち二人だけが委員会に入るんだ?そこをまず説明願いたい。」

やや憮然としている黒沼に真澄が答えた。

「ここでの話は他言は無用で。姫川さんは諸事情の背景、勘付いていますが、北島さんはまだ知らない。だから、北島さんに対して、どのように伝えるか、その点は、少しここにいる全員で話し合いが必要ですが。」

「わかった。それで?」

「まず、赤目さんは、第1期で紅天女を離れます。諸条件は赤目さんとつめていて、最終段階に来ています。今日の決定発表前に本人のご希望の最終確認をしています。そして、先ほども小野寺さんのいる前で確認もとっています。」

「は?そうなのか。そういうことなのか。赤目の野郎、どういうつもりで。」

「理由は公表を希望しないそうです。私からはお伝えできません。」

「ふんっ。たいそうなこった。まあいい。」

「次に、シアターXの件。背後に小野寺さんがいることが判明しています。色々な意味で、小野寺さんがご自身の意思で、演劇界から身を引くことを希望していますが、先ほど話した時はご理解いただけなかったようです。」

「ああ?どういうことだ?」

「申し上げた通り。小野寺さんが糸を引いていました。先日の記者会見のとおり、罪に問うつもりはありません。それは今後の紅天女のためでもあると判断したからです。軽微な犯罪になるでしょうし、スキャンダルになっても、結局恨みが増大するだけ。ならば、黙って身を引いてほしいのです。長年勤めた功績に対する報酬はありますから。しかし、その部分までの話にはなりませんでした。」

「ずい分甘いな。まあ、いい。俺のやることの邪魔さえしなければ。」

「そこなんです。邪魔をしてほしくないから、黙って消えてほしいのです。」

「なるほど。それで?」

「はい。第1期は、万が一小野寺さんが抜けても、カタチは出来ているので、上演は可能でしょう。第2期以降の話です。あくまでも可能性のひとつですが、配役が今の小野寺組、黒沼組を越えて、シャッフルすることもありえます。」

「おおー、たとえば俺が姫川亜弓を演出するのか?ははは。」

「はい。そうです。それです。今日は、黒沼さん、冴えていますね。」

「からかうなよ。そうか、まじめな話か。なるほど…。」

「つきましては。黒沼さん、忙しくなりますよ。大雑把な言い方ですが。個人の好き嫌いはきっと変わらないでしょうが、受けたいお仕事を受けることができるマネージメント体制も考えておいてください。必要であれば力を貸す準備はいくらでもします。」

「痛い所をついてくるねぇ、若社長さんよ。」

「桜小路くんも同じ。今はオンディーヌ所属、ということで、個人マネージメントになっているが、正直、オンディーヌはもう離れなさい。大都所属になるなりも含めて、考えてほしい。保存委員会はマネージメント業まではやらないので、自分で考えなければならない。」

「はい、今はオンディーヌには顔も出していません…。」

「その話で終わりか?赤目、小野寺、そして、マネージメント。これらを他言無用で、ということだね。その後、黒沼組のスケジュールはまた別途ということ。役者のシャッフルもありえる。委員会に関してもまた別途。あっているだろう?今日はもう長々と疲れた。俺はもう、飲みに行きたい。」

と黒沼は急かすように言った。

「そうです。それにしても、黒沼さんは、小野寺さんのこと、驚かれませんでしたね。」

「関係ない。あいつは人間として嫌いだったからな。どっちでもいい。ただ、大きな迷惑をかけているってことははっきりしたんだろ。それならば、それで、どこかでなにか罰もあるだろうよ。それにあれだろう?劇団つきかげが遭った嫌がらせにも手をかしていたんじゃないか?そんなところだろう。小さいやつだな。態度は人3倍くらいでかいのに。でも、俺には関係ない。邪魔していたやつが消えるならやりやすくなるだけだ。」

「あちらの演出をすることに抵抗はないのですか?」

「ない。北島がちょっと感情的になるかもしれんが、最近のあいつはあのひと月の沖縄から変ってきている。考えて動くようになっている。もともとの感性はそのまま、いや、むしろ、考えることで感性も研ぎ澄まされてきている。ひいき目なしに見事だ。あれはオオバケする。」

「あの、マヤちゃんはマネージメント、どうするのですか?」

「そこは、考えている。北島さんに確認して、伝えても良くなったら、君にも伝えるよ。君の身の振り方をどうするか考える参考にもなるだろうしね。」

最後にやっと千草が言葉を発した。

「いよいよ動き出しますね。お二方にはこれからも尽力いただくこと多いと思います。どうぞよろしくお願いいたします。」

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