ガラスの仮面SS【梅静048】 第3章 確かな息吹 (5) 1984年春

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会見後組別ミーティング 小野寺組

小野寺、赤目、理事長、千草、速水。全員の顔が厳しかった。小野寺は腕組みをし、他の4人を威嚇しているようだった。

「それで、赤目さん。第1期はどうなさいます?単刀直入に。」

真澄は、赤目だけを見て話した。赤目はゆっくりと答えた。

「先日お伝えしたことを基本に。第1期は全力で努めさせていただきたい。つめなければならない契約事項は、あのあとに、速水社長から書面でいただいたものでおおむね了承。ただ、細かい点が多少すり合わせをしたい。いや、些細なことですよ。守秘に関してはもちろん問題なし。」

「話が早い。あなたは賢明だ。では、第1期の千秋楽までよろしくお願いします。その間の記者会見等はすべて大都で仕切らせてもらいます。あなたのマスコミに対しての言動も。そちらの事務所には主導権はありませんが、それを含みおいての契約と報酬。その部分は織り込んだつもりですよ。その線は大丈夫という認識であっていますね?」

「ああ。その通りで。こちらからは本件に関して能動的な発表もしない。その分、何か漏えい等あっても責任は負えない。紳士的な契約だ。また、こちらからは、姫川さんには、何も言わないという先日の話でこちらもお願いしたい。舞台は全力で集中する。歴史に残る第1期と言われるものにしたい。」

「さすがの心意気です。わかりました。あとは念の為、千秋楽までの他の仕事、ドラマをもう入れたというお話でしたが、その詳細を今でなくてよいのでお伝えください。こちらでもスケジュール等把握しておきたい。」

「了解しました。最大手の大都さんにたてつくつもりはありませんよ。鷹通テレビの夏休み特番ドラマですよ。親戚でしょう。読み合わせが多少かぶる程度。うちだって、まだ10人にいかないですが、役者抱えてますんでね。ええっと、では、そろそろ…。私は、まだ、ここにいたほうがいいですかね?」

「ふっ。貴方も相当なものですね。赤目さん。僭越ですけれど、無傷でいることが一番です。クロや当事者になってはいけない。スキャンダルもどれだけグレーに近くてもグレーにはならずに。まあ、おわかりでしょう。貴方はまだまだ活躍いただく日本の男優さんですよ。」

「まあ、なんとでもおっしゃってください。速水さん、社長を信頼しますので、数字の部分も含めて取り決めて、数日中にまとめちゃいましょう。あと復刻版紅天女、おっと、これは勝手に名づけちゃいましたが、そちらに集中したい。初代一真を切なく、壮大に演じますよ。姫川亜弓をこれ以上なく引き立ててみせる。ですから、契約は、一発でうんと言いたいですよ、それでは…っと、私はここで失礼でいいですかな。」

と立ち上がり、小野寺を一瞥した上で、会釈して退室した。小野寺は何のことかときょろきょろした。

千草が何かを話そうとしたが、真澄が手でそっと制止した。

「小野寺さん。大都の社長として話します。小野寺さんは大都グループの社員でもありますから。そして、私が話すことは、ここにいる理事長、月影さん、そして私の総意です。」

「なんですか。あらたまって。さっきの赤目さんのことと言い、何か私の知らないところで物事が進んでいるみたいで気分が悪い。」

無表情で、感情を示さずに、真澄が言った。

「平良くんは私が保護しています。」

「は?た、平良と言われても何のことだか。」

「大切なことですから繰り返します。平良くんはもうあなたの目の届かないところに、この速水が保護しています。」

真澄はさらに冷たく言い放った。

「何のことだかわからない、と言っているだろう?社長だからと言って。わけのわからない事ばかり繰り返しおって。失敬じゃないか?」

「失敬?さてはて。私は、あなたの長年にわたるオンディーヌへの貢献を考えて丁寧に申していますよ。貢献以外、そう、あなたのなさってきたことには今この瞬間は目をつぶっていますよ。その上で、平良くんを保護していることを伝えています。」

「だ、だ、だから、平良と言われても…」

「小野寺さん、それがあなたの答えですか?それでよいのですか?」

「……」

「平良くんが、姫川亜弓さんの目の話をしたのです。そこからです。亜弓さんの視力の問題が我々に伝わったのは。なぜ、平良くんが知っていたのでしょうか。」

「……」

「赤目さんが第1期で紅天女から一切手を引く契約はほぼまとまっています。先ほどお聴きになったとおり。たとえば、「復刻版初代一真」というタイトルはずっと使っても良いという項目や、その後は、一切、紅天女に関するコメントをしない、ということやら。細かく決めています。赤目さん個人と大都と保存委員会との契約になると思いますが。とにかく、第1期までです。」

「だっ、たいらが…」

「わかりました。小野寺さんがそういう姿勢であるならば、また、我々も考えなければなりません。」

「…」

千草がゆっくりと口をはさんだ。

「試演、すばらしかったわ。小野寺さんの演出は、脚本を忠実に描き出す。そう、あなたはずっとそういう演出をなさってきた。脚本の密度を高めるやり方。あなたの演出の劇は、見た後に満足感がある。」

「なぜ、その実力で満足できなかったのかしら?なぜ、権力や名声が欲しかったのかしら?あなたに自信があれば、あなたの目に何が入ってきても心配ないでしょう。なぜ、気にくわないものを叩き潰し、そして、人を傷つけなければならないの。わからない。」

「…」

「まるで、争いを見つめている阿古夜の気分ですわよ。もういい加減になさって…、でも、人の心はわからないもの。そうも思うの。だから、小野寺さん、あなたの気持ちはわからないままでいい。ただ、あなたがしたことに対しては、もう見逃せない。わからないままでいいとは言えない。特に、私は、紅天女を守らなければならない。」

「まわりくどい。もういい、それで何が結論だ?あんたたちの要求はなんだっ?」

小野寺がつっけんどんに言うと、真澄があえて冷静に言った。

「もう一度言います。平良くんはこちらで保護しています。小野寺さんはどうなさいますか?」

「ふんっ。即答は出来かねるわい。時間をくれっ。」

と乱暴に言い放ち、どすどすと足音をたてながら、勝手に退室した。これ以上ない乱暴なドアの締め方だった。

◆◆ 本創作にのみ登場する人(原作には存在しない人物)◆◆

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