ガラスの仮面SS【梅静053】 第3章 確かな息吹 (10) 1984年春

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亜弓の家 つづき

「ほう。興味深いことを言うね。麗さん、亜弓よりちょっと年上かな。よく考えて、観察しているね。面白いね。よし、とっておきの日本酒だそう。飲みながら話そうよ。梅乃さん、あれ、だしてくれるかい?麗さん、どっちがいい?冷?燗?」

「うわー。何が出るかな。どちらでもいいです。監督にお任せします。」

「よし、じゃ、お燗して持ってきて来るかな?」

「あらあら、あなた、本当に今日はご機嫌ね。でも麗さん、舞台もドラマも、役者だけで作れるものではないから。負け犬も何もないわ。自分を信じることよ。」

と歌子はにっこりと笑いながら言った。

「水城さんを冴子さんって下の名前で呼ぶ方、初めて見たわ。あの速水社長ですら、一目おいて、時に彼女の手のひらで転がされている時があるくらいなのに。あなた方、仲が良いのね。」

「えっ、いえ、あの、マヤのおかげで会う機会が増えて。それで色々、教えてもらったり、良くしてもらっています。」

と麗は答えた。

日本酒が始まってから、麗と監督の映画談議も始まった。麗は、監督の作品のひとつ、「あの河を越えて」のワンシーンについて熱く語っていた。監督も撮影に苦労したシーンだったのでそれに応えて熱く語っていた。

「すっかり気が合ったみたいね。」

と亜弓が言い、そこに歌子が、亜弓の小さいころのアルバムを持ってきてマヤに見せた。

「あら、懐かしい。」

と亜弓が言い、マヤと一緒に見た。

「かわいい。亜弓さん、小さいころからお姫様みたい。あたしのまわりにはこんなきれいな子いなかった。ステキ。」

とマヤはうっとりとしながら、ゆっくりアルバムに見入った。

「この頃からね。親の七光りと言われるのが嫌で嫌で仕方なかった。全部一生懸命頑張ったわ。勉強も、お芝居も。内緒だけれど、料理だけはダメなの、わたくし。それ以外は本当に全部頑張ったわ。」

「すごい。カッコイイ、亜弓さん。あたしは、成績もダメ、うちも貧乏で、母が住み込みで働いていて、何も取り柄がない、つまらない子供だったの。」

「不思議ね。その二人が出会って、二人とも私のヘレンになって。そして、私が演じることができなかった紅天女を作っていく二人になっている。人生はなにがあるかわからないわね。」

と歌子がしんみりと言った。少し、沈黙になったので、歌子が話題を変えた。

「ところで、マヤさんはおつきあいしている彼氏はいるの?桜小路くんは、マヤさんのことを好きなんじゃないかと前からおもっているのだけれどね~。あくまでも私の勘よ。フフフ。」

「そ、そ、そんな。それはないです。彼なんて余裕ないです。モテないし、あたしは。」

と焦ったマヤは顔まで赤くなっていた。

「ママ、いいじゃないの。あたくしたち、もうそこそこいい年だし。いろいろあって当然でしょう。フフフ。でも今一番の恋人は紅天女。それに決まってるじゃない。」

「そうね、そうよね、ほほほ。」

と歌子が笑ったので、3人で笑った。

楽しい時間はどんどん過ぎ、歌子は、梅乃と一緒に片づけを始めていた。麗と監督は相変わらず映画談議を続けていた。日本酒はかなり進んでいる。亜弓はマヤを自分の部屋に招いた。

「意外~。モノがほとんどないのね。亜弓さんのお部屋だから、もっとお姫様のお部屋みたいなものを想像しちゃっていました。」

「うん。前はそうだったの。でもね。目のことがあってから、思い切って捨てて、シンプルにしたの。すっきりよ。」

「そういうものなのですね~。あたしはずっとアパートの狭い部屋だから。でもそれはそれで天国なの。」

「本当に、わたくしたち、巡り合えてよかったわ。ちょっとしたきっかけでタイミングがずれていたら、出会えなかったかもしれない。これからもよろしくね。」

「もちろん!あたしの方こそよろしくってお願いしたいわ。」

「マヤさん。第1期、これは観に来てね。毎日でも来てほしいくらいよ。必ず来てね。わたくしも全力で演じます。月影先生の紅天女、内容はそのまま。でもグレードアップして、『姫川亜弓が月影千草を超えた』と言われるようにしてみせるわ。」

「亜弓さん。」

「わたくしは、まだマヤさんの紅天女を観ていない。先生のお話を伺うと、マヤさんの演技がすごいということはわかる。でもマヤさんの演技を観た時に、姫川亜弓はこれでいいんだと思えるように、第1期、演じ切ってみせる。」

「だから、マヤさん。わたくしの阿古夜からも必ず何か吸収して、マヤさんの阿古夜もグレードアップしたものを観せてくださいね。約束よ。」

「うん。約束する。ありがとう亜弓さん。お互いがんばろうね。」

そこにノックをして、歌子がやってきた。手には2つの小さな箱を持っていた。

「亜弓、これ、珍しくあなたがほしがったものよ。そして、これは、私のお気に入り。」

といいながら箱を開けると、パールのイヤリングと、アメジストのイヤリングがそれぞれ入っていた。

「亜弓にはパール。健康に気を付けて、気高く輝いていきなさいね。そして、アメジスト、直感で紫がマヤさんに似合うと思ったから。マヤさんも気高く、そして、選ばれたものの自覚をもってがんばっていってね。私から、二人の阿古夜さんへのプレゼント。両方とも大切にしてきているものだから。使ってね。」

と歌子は亜弓とマヤにそれぞれ手渡した。二人とも、箱をぎゅっと胸に抱いて、深々とお辞儀をしてお礼を述べた。

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