ガラスの仮面SS【梅静045】 第3章 確かな息吹 (2) 1984年春

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会見前日 ホテルロビー そして 姫川家

あまりの内容に会議室を出た亜弓は大きなため息をついた。

「こんなことになっていたなんて。知らなかったとはいえ…。ううん、今までも、気になることはあったけれど、多かれ少なかれ、なにかしら有ったと言うことよね…。」

そんなことを考えつつロビーに戻ると、声がかかった。

「ボンジュール、マドモワゼル・アユミ!」

振り返ると、ハミルが柔和な面立ちで立っていた。

「ハミルさん、なぜ、ここが?」

「偶然です。アユミ。少し、休もうかと思って、これからカフェに行くところ。時間ありますか?アユミ。」

「ごめんなさい。ハミルさん。少し、疲れたので、今日はこのまま自宅に戻ろうと思うの。」

「そうですか。残念です。ならば、送ります。」

「大丈夫。車を待たせてあるわ。そして、今日は一人でいたいの。明日、会見もあるので。ごめんなさい。ハミルさん。」

と亜弓はいつになくそっけない返事をして歩きだした。ハミルは少しさびしさも感じたが、亜弓の意思を尊重し、後追いはしなかった。そして、その後ろ姿が消えるまで、ハミルは亜弓を目で追っていた。

帰宅すると、歌子が出迎えた。亜弓の表情を見て、ただ事ではない何かを歌子は悟った。すぐに、目の調子が良くないのではと心配し、声をかけた。

「疲れたの?明日は記者も来るから今日は一人でゆっくり休みなさいね。パパは今日は帰ってこれないけれど、明日、みんなで食事をしない?って話していたわ。どう?亜弓?」

「そうね。久しぶりに揃って食事もいいわね。あ!それならば、マヤさんにもご一緒していただこうかしら。明日、長年の想いに一区切りつく日でしょう。お誘いしても良いかしら?」

「素敵じゃない、亜弓。貴女がお友達を呼ぼうかしら、なんて、初めてかもしれないわね。南平台のフレンチは?」

「うーん、フレンチかー、マヤさんはあまり気取らない雰囲気が緊張しないでいいと思うわ。マヤさんは緊張すると無言になっちゃうから。なるべくカジュアルなほうがいいわ。そうね、手配ができるならうちでもいいかもしれない。おうちに来ていただきましょうよ。若い女の子が来るなんて、うちも華やかになるしパパも喜ぶわ。」

「それはいいわね!私も手伝って準備しておくわ。」

「そうね。その方がいいわ。明日、会見が終わった後も、色々と説明がありそうだから、時間も読めないから…。」

「亜弓…。今日はやはり何かあったのね。まあ、貴女が話したかったらいつか話してくれるでしょうから、今は聞かないわ。明日の準備始めるわね。楽しみねぇ~。うちに亜弓のお友達が来るなんて。ドキドキしちゃうわ。亜弓、貴女は気にしないで、ゆっくりお部屋で休みなさい。」

「ありがとう、そうさせていただくわ。ママ、本当にありがとう。ママがいなかったら、明日を迎えられなかったと思うわ。明日の結果。いかなるものでも、わたくしは受けとめて、紅天女にかかわっていくつもりです。明日あらためてまたお礼を言わせてね。」

決定会見当日

会見当日、会場のオーシャン・シアターには記者がつめかけた。オーシャン・シアターの周りには亜弓やマヤを一目見ようと、ファンも集まり、ひとつのイベント会場のようになっていた。

出演者は早めに集合し、控室で待っていた。主演女優、男優、演出には個室があてがわれていた。亜弓は、マヤの部屋をノックした。

「マヤさん、今、ちょっとだけいいかしら?」

「亜弓さん、はい、どうぞ。」

控室には麗がいたが、麗は亜弓を見て、軽く会釈をし、マヤに向かって、

「ちょっとトイレ行ってくるね。」

と言い、その場をはずした。亜弓は麗に会釈をし、控室に入った。

「青木麗さんよね。彼女、本当に美人だし、実力もあるわ。いつもマヤさんの味方でいらしてくださって、本当に友人って素敵でいいわね。」

「はい。つきかげのみんなには支えられていて。でももう甘えてばかりではいられない、という話もあるくらい甘えっぱなしなので。自立していかないと。」

「まあ、どこかとマネージメント契約でもするの?」

「うん、あたしはよくわからないですが、そういう話も…。」

「そうなのね。何かお手伝いできることがあったら遠慮なく言ってね。そうそう、会見の前に、そんな話をしたいわけじゃないのよ、それでお邪魔したわけじゃないの。あのね。」

「はい。なんでしょ?」

「今日、会見でしょう?終わったあとに時間あるかしら?一緒に食事しない。うちにいらっしゃらない?今日は父も母もいるの。マヤさんの時間が許すなら、うちにいらっしゃらない?」

「えー、あの姫川監督と姫川歌子の家?」

「ほほほ。そうよ、そう。わたくしの家よ。外で食事とも思ったのだけれど、時間が読めないのでね。昨日、母と話して、もう勝手に来ていただけるものと思ってね、うちのばあやと母で準備の真っ最中よ。どう?マヤさん。」

「えー、今日は、会見の後は特に…。麗と、美味しい餃子でも食べようか、って話をしていたの。」

「あら、餃子?今度わたくしも連れて行って。食べたことないのよ、外では。あら、じゃあ、今日は、そうね、麗さんもよろしければ、お二人でいらっしゃらない?」

「餃子、すごくおいしい所あるんです、羽根つき餃子って亜弓さん知ってる?」

「羽つき?知らないわ。飛ぶの?」

「ははは、ちがいますちがいます。今度行きましょう!ぱりぱりしておいしいの。」

「是非お願いしたいわ。今夜は、じゃあ、一緒にうちで。」

とそこまで話したところに、麗が戻ってきた。

「麗さん、あらためて、姫川亜弓です。よろしくお願いします。突然ですけれど、今日の会見のあと、マヤさんと一緒にうちにいらっしゃらない?紅天女の一区切りの打ち上げ食事会をうちでやろうと思うの。是非!」

「ええっ?!!姫川亜弓って、もちろん、知ってますよ。もちろん。その姫川亜弓の家!!芸能人の家??行っていいの?姫川監督のファンなんですよ、私。服は何着たらいいの?」

と麗が素の反応をしたので、一同顔を見合わせてゲラゲラ笑った。

「ハハハハハ。面白い、面白いわ。ええ、そうです。うちには姫川監督も女優の姫川歌子もそして姫川亜弓も住んでいます。では、決まりね。さっそく、一人増えると電話してこなきゃ。会見のあと、車で行きましょう。楽しみだわ。終わったあとはお家までお送りするので安心なさってね。」

と言い、亜弓はマヤの控室を後にした。

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