ガラスの仮面SS【梅静046】 第3章 確かな息吹 (3) 1984年春

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク

紅天女決定会見

壇上には、シアターXで会見した時と同じメンバーが並んでいた。

「今日、お集まりいただき、長きにわたり、競っていた紅天女に関し、これから決定事項をお伝えしたいと思う。」

山岸理事長がいつも以上に力強い声で言った。

「大筋では先日の会見でお伝えした通りである。ただし、変更点もあり、それを合わせて、今から発表する。」

「当初、上演権を譲る者を選ぶための過程をふんできたが、上演権そのものを含めた、紅天女に関わる権利は紅天女保存委員会にすべて渡す。そして、ここが、みなさんが注目する点であるが、姫川亜弓、北島マヤ、どちらに、に関しては…」

すうぅっと息をのみ込んで、ひときわ大きな声で山岸理事長は言った。

北島マヤに決定する。

ステージ後方スクリーンに大きく「北島マヤ」と映し出された。

マヤは、ぽかーんと口を開けて、後ろを振り返り、自分の名前が出ているのを、あわてふためきながら見た。会場には笑いが起こった。

亜弓はマヤに笑顔を向け拍手をし、すぐに、また正面に顔を戻した。山岸理事長は一呼吸置いてから続けた。

「決定理由は、さまざまなことがある。かいつまんで要点を述べるのであれば、現時点の演技に関する技能については、姫川亜弓が圧倒的に優れているという結論であった。その点に異論をはさむ者は一名もいなかった。
しかし、また見たい、目が離せないと思わせる部分に関しては、北島マヤに軍配があがった。その部分を重要視し、北島マヤに決定した。」

会場はややどよめいた。しかし、お構いなしに理事長は続けた。

「これから話す点は、前回発表と異なる点であるが、ここダイト・オーシャン・シアターのこけら落としである紅天女は3月3日を開幕日とし、姫川亜弓主演、小野寺一演出のもと、3月31日まで上演される。鑑賞チケットに関しては、上演までひと月という短時間であることを考え、大都芸能が取り仕切り、明後日より販売開始する。」

亜弓はさっと立ち上がり、満面の笑みで一礼した。同時に記者たちから「おおお」とどよめきが起こった。

「それ以降、第2期以降に関しては、保存委員会が協議し、また改めて決定、報告することとする。なお、保存委員会には、北島マヤ、姫川亜弓、そして、東方弁護士事務所の松坂春江弁護士が内定しておる。」

舞台に女性が一人あがり、深々とお辞儀をした。松坂弁護士である。

「ここまでが、発表内容であるが、いろいろ、みなさんもお知りになりたいことがあるだろう。ただ、今回は、スケジュール的にも非常に厳しく、第1期上演までもあとひと月を残すのみ。随時みなさんへの報告を心がけるよう努めるので、今日の会見は簡潔にお願いしたい。残りは、分量は構わないので、質問を文書で送ってほしい。」

と、かなり一方的な要望を山岸理事長は述べた。その迫力に押されたのか、記者たちも反論しなかった。

「加えて、これはお願いであるが、上演開始まで短期間であるので、関係者は集中する環境を必要としている。マスコミ諸兄においては、執拗な追随、詮索、また、根拠のないスキャンダル等をもって、関係者の時間を奪うことを自粛いただきたい。これはあくまでもお願いであるが、数十年ぶりに、日本演劇の大演目である紅天女が上演されることをご理解いただき、是が非でも成功させる、その想いにむかって、諸兄の賢明なるご協力を乞う。発足次第、保存委員会が情報提供を心がけるので、どうぞご理解を賜りたい。」

と言い、山岸理事長と月影千草が起立し、深々とお辞儀をした。一同は静まり返った。

「では。主演女優にそれぞれ一言ずつ述べてもらってこの会見を終わりにしたいと思う。まず、第1期上演の主演女優、姫川亜弓から。」

亜弓はすっと立ち上がり、一礼し、響く声で話した。

「今日は御集りいただきありがとうございます。残念ながら、いずれか、という点ではわたくしは選ばれませんでした。しかし、月影先生が演じた以来、初めて、紅天女を演じさせていただくこととなりました。また、大都芸能の新規劇場、こちらのこけら落としの主演という光栄な役目も賜りました。ご覧になったことのある方も、ない方にも、最高の紅天女をお届けしたいと思っております。是非、こちらに足をお運びいただき、ご覧くださいますよう。よろしくお願いいたします。」

拍手がわき、山岸理事長にマイクが戻った。

「続いて、競った結果、選ばれた北島マヤ。」

マヤは、あわあわしながらも立ち上がり、一礼した。

「北島マヤです。選んでいただき、ありがとうございます。今までいただいたご恩をお返しできるように、紅天女がずっとずっと続くことを願いながら、がんばります。」

短いあいさつであったが、マヤにするといつになくきちんとしていた。話終わったあとにぺこりと頭を下げる様子もしっかりとしていた。

不思議なほど質問等なく、つつがなく決定会見は終了した。檀上にあがった関係者は全員控室にて追加説明を受ける運びとなった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました