ガラスの仮面SS【梅静015】 第1章 もとめあう魂 (13) 1983年秋

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ここまでのお話

いよいよ紅天女候補者決定のため、シアターXにて試演をおこなうことになったが、そこが悪意のボヤの所為で使えなくなってしまった。やむなく代替を考え、主演女優候補者は秘密裏に1か月を過ごすことになった。

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数日しかたっていないのに、真澄の顔を見ることができたマヤは落ち着かなかった。真澄は至って平静を装っていたが、落ち着かない気持ちは同じだった。しかし、真澄が山岸理事長と月影先生の代理となった大都の社長として、マヤに伝えたことはマヤを混乱させた。

マヤが言い渡されたのは、沖縄でひと月過ごすことだった。出発は明後日。そこで大都が立ち上げたばかりの「沖縄Dスクール」という芸能養成学校で過ごすことだった。具体的には演技をすることよりも、生徒たちに演技を教えたりする。

マヤは今までは自分が思うように演技をすればよかったのに、それをきちんと人に伝えてみること。そして教えること。今までのマヤにはなかったことであった。それを試演の前の大切なひと月にやってみろ、というのだ。

それを真澄から伝えられたマヤは言葉をなくして呆然としていた。やっと出た言葉は、

「一人で行かなければならないのですか?」

だけだった。真澄は、

「うん。途中から青木さんは呼ぶつもりだよ。君が一人だとそれはそれで何をしでかすかわからないからね。そして、行きは、私とそして、フライトの時間はずれるが水城くんも一緒だ。しかし、私は1泊だけして帰る。水城くんも青木さんが来たら入れ替わりに帰る。そこから青木さんと二人で乗り切ってほしい。」

「速水社長と一緒に飛行機に乗るのですかっ??そして、麗も来てくれるんですか?麗の仕事は?」

「ああ。嫌でも我慢してもらうよ。そして青木さんは、先ほど、水城くんと調整済だよ。」

水城は真澄とマヤを交互に見つめうなずく。

「ただね…。たんに教えるということだけではない。教える時間以外は、歌とダンスのレッスンを生徒たちと一緒に受けてもらうよ。そして、これはきついかもしれないが、他の講師陣もみな今回初めて指導をする人たちが多いんだ。みんながスタートラインだ。そこでのやり方でそのスクールが根付くかどうかにかかわる。大きな役割だよ。」

真澄は続ける。

「沖縄は、数年前に海洋博があったが、まだまだ、東京とは距離がある。色々な意味でな。そこに、大都は一石を投じたいんだ。そこでの体験は無駄ではないはずだよ。もちろん沖縄の自然も阿古夜にとってはプラスになるだろうと月影先生も納得されている。」

「あのぅ、あのぅ、亜弓さんは?亜弓さんはどちらに行かれるんですか?亜弓さんはレッスンを続けるのではないのですか?」

「いや。亜弓さんは同じように自然に囲まれた場所で、彼女の阿古夜を作り上げるために全力を尽くす。それは同じだ。場所は今は言えない。亜弓さんも、君がどこにいて、何をするかは知らない。そこはフェアに進める。マスコミにもばれないようにする。だから、君も、あえて人に言いふらすことではないからその点は注意が必要だ。」

マヤは真澄を見つめていた。何かを読み取ろうと必死だ。そして、顎をくいっとあげ、

「わかりました。明日一日で準備して行きます。どうやって行っていいかさっぱりわからないですが、そこもお世話していただいてよいでしょうか。」

と、きりっとした顔で言った。

「もちろんだよ。もう予約は全て済んでいる。あちらで滞在する場所も決まっている。」

「そうですか…。そして、1か月後、帰ってこれるのですよね?そして、舞台稽古と試演をどこかでやるのですよね?シアターXは無理なのですよね?」

水城が真澄の代わりに答えた。

「はい。マヤさん。もうあそこは難しいわ。そして、これは最終的に決定しているわけではないけれど、不安に思ってもらいたくないから今伝えますが、たぶん、大都が用意する劇場かシアターを使うことになりそうです。だからと言って、貴女方お二人のどちらが紅天女になるのか、ということに影響はしませんわ。今回の沖縄は、月影先生も、現状でできるベストだろうとおっしゃっているの。試演がシアターXのボヤの所為で延期にならざるをえない。その間、貴女方お二人の身の安全と、外野から干渉されないためには、やはりどこかに行ってひと月すごしてもらおうということなの。ご理解いただけるわよね?」

「わかりました。月影先生がおっしゃっているのならば、私は従います。沖縄どころか、前のお仕事で出かけたところしか行ったことがありませんが、よろしくお願いします。あ、あと、黒沼先生はご存知でいらっしゃいますよね?ご挨拶する時間がないまま1か月はずすことになってしまいそうで、大丈夫かしら??」

「マヤさん、だいぶ、しっかりしてきましたね。前とは違うわ。ふふふ。たのもしい。ええ、黒沼さんにも先ほど詳しく伝えてありますから。ただ、ひと月の間は、黒沼さんにも桜小路さんにも会えないことは覚えておいてください。明日のうちにご挨拶されたら?まあ、マヤさんのひと月はあっという間でしょうけれどね。」

マヤが帰ったあとに、水城が真澄に向かって、

「ひとつだけウソをおっしゃいましたね。マヤさんが沖縄に行かれることを亜弓さんはご存知でいらっしゃる。しかし、それも亜弓さんを守るためでもあり、マヤさんを守るためでもありますわね。あとは、言いたくはありませんが、小野寺さんの事ですわね。困ったものですわ。平良さんは真澄さまのフライトより遅く沖縄入りしてもらいます。逃げることはないと思います。私が一緒に行きますから。」

「うん。お願いする。オーシャン・シアター、Dスクール。くしくも二つ同時に立ち上げて走らせることになるが、これは成功させるぞ。そして、紅天女も大都が…。」

桜小路は、黒沼から、山岸がいうひと月は、まったくマヤと関わることができない期間になることのみならず、どこにいるかすら知らせてもらえないことに動転した。そして、あてもなく外に飛び出し、気づいたら、ボヤがあったシアターXに来ていた。

50はいつになるのでしょうか…

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