ガラスの仮面SS【梅静019】 第1章 もとめあう魂 (17) 1983年秋 第1章終

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク

「それでは今日は失礼します。明日は8時にDスクールで。真澄さまは、いったんスクールに寄られてから、そのあとすぐに空港に向かってください。9時半の羽田行ですから。マヤさんは、自分なりのイメージチェンジをして、佐藤ひろみになって、来てください。おやすみなさい。」

上機嫌のまま、水城はひとりタクシーに乗り込んだ。マヤと真澄は、そのステーキハウスからあえて徒歩でホテルまで戻ることにした。二人はゆっくりと歩きながら、星を見上げたり、波音を聞きながら手をつないでいる。

「私、できるでしょうか。いや、やってみます。このひと月は今以上に集中して、組んでいただいた課題をしっかりこなしていきます。鈴木さんに負けていられません。もちろん亜弓さんにも負けたくない。何より、自分自身が変っていきたい。大人になりたい。」

マヤはまっすぐ前を見ながら声に出した。

「マヤ。そうだね。今でも十分魅力がある一人の女性だけれど、大人になってくれ。ずるい言い方だとは百も承知だけれど…。俺はもうマヤ以外考えられない。でも、もどかしい現実もあることは事実だ。身勝手かもしれないが。」

ここまでの本音を真澄が言葉にすること自体にマヤは驚きもあった。そして、それ以上、言葉の深い意味をたどってしまうと、目の前にある壁が自分を壊してしまいそうな恐怖も感じた。

「たぶん、わかっています。私。そして、私は今、阿古夜になることだけを手にしていくことを目標にします。それが、今の私にとって最大のこと。速水さんのもどかしいものが、いつかもどかしくなくなる日まできっと私は私の目標を追っていくことができるはず。やせがまんではないです。やっと、この手をつかむことができたのですから。だから大丈夫。」

「この時期でも咲く花ががあるんだな。もうすぐ冬になると言うのに。ここに来て、青い海、降ってきそうな星、けなげに咲く花、いろいろ一緒に感じることができたな。紅天女が決まることは延期になったけれど、この時間を一緒に持てたことは二人にとって大切だったね。」

「はい。そう感じています。この積み重ねで、頑張っていけると思います。」

「うん。そして、今夜は…。」

「はい。今夜は…。」

「今日はいろいろあったから疲れただろう。」

真澄はそう言って、部屋に入りながら、まず部屋の明かりを低めにして、バスルームだけ明かりを強くした。まず、自分が手を洗って、マヤもそれに続いて手を洗いたいとバスルームにいき、水音が聞こえていた。真澄は窓を開け、漆黒の海を見つめながら波音を聞いていた。

「明日は早起きして、散歩もしてみよう。海もまたちがう表情を見せるはずだ。」

バスルームにいるマヤに聞こえるようにちょっとだけ大きめな声で真澄が言いながら振り返ると、マヤは服を脱いでキャミソールだけになっていた。バスルームからの明かりを背に受け、身体のラインははっきりと映し出されていた。

「ふぅ。マヤ、俺の心を読んだのか?俺が言葉にできないでいたことを?」

「わかりません。ただ、ずっと…。」

「ずっと…?」

「おまえさまはわたし。わたしはおまえさま。これが…。」

「マヤ。マヤ。」

真澄はマヤのもとに駆け寄りすぐさま強く抱きしめキスをした。そしてそのままベッドに二人で倒れ込んだ。

「私、どうしたらいいのか?はじめて…なので…。」

「何も言わなくていいよ。しばらくこうしていて。ぴったり。」

真澄はキスを何回も重ねながら続けた。

「そしてシャワーを浴びてこよう。二人だけの時間だ。」

先に真澄がシャワーを使っている間、マヤは大胆な行動をした自分に驚いていた。そして、同時に紫織さんのことを思い出した。もしかしたら、自分は紫織さんを傷つけているのではないだろうかとも思った。しかし、やっとつかんだあの手。速水さんの手を離したくないという気持ちが勝った。そして、つかんだ瞬間からお互いがお互いに重なったのだと確信した。隙間などない。重なり合った同一のものだから。だからこの瞬間はもう紫織さんのことは考えるまい。

真澄が上半身裸でシャワーからあがってきた。腰にバスタオルだけ巻いている。マヤは目のやり場に困り、そそくさと立ち上がって、自分もシャワーにむかった。すると真澄が後ろからマヤを抱きしめた。その時、硬いものがマヤの腰にはっきりと当たり、マヤは男性が高ぶるとこうなるのか、と初めて体感した。

「い、いって、きます。汗、汗、かいてますものねっ。」

マヤはあわてて、頭からシャワーを浴びてしまい、髪の毛まで洗ってしまった。時間がかかってしまった。乾かして戻ると、真澄は小さな寝息をたてていた。マヤは黙ってベッドの横にもぐりこんだ。すると真澄が振り返り、ぐいっとマヤを抱き寄せ

「次に会うまでの充電」

と言いながら軽くキスを繰り返し、マヤの身体をすみずみまでやさしく触りながら見ていった。ため息のようなあえぐ声が思わず出てしまったがこらえなければと口をきつく閉じると

「いいんだよ。わたしはおまえさま。おまえさまはわたし。」

と真澄が耳元でささやいたので、マヤはそこからは我慢ができなくなってしまった。誰かに聞こえてしまったのではないかと思うくらいの声がでたかもしれない。

真澄の身体は大きくたくましく、覆いかぶさられると、マヤは抗えないと感じた。抗えないのではなく、正確に言うと、抗いたくない。これがあるべきところなのかなと思った。

真澄は激しくマヤを求め、マヤの小さな身体はだんだん赤くほてっていった。真澄はマヤのすみずみまでまさぐり、ひとつひひとつを確認するように触り、まさぐった。自分の手にすっぽりおさまる白い乳房はまだ幼さが残っていた。しかし、誇らしげにつんと上を向いていた。

真澄は自分がマヤを貫いてしまってよいかと一瞬のためらいを覚えたが、あっけなく本能が勝った。貫くとマヤは少し苦しそうな表情を浮かべたがそれもまた愛おしかった。もう離さない。誰にも渡さない。誰かに渡すことは、自分の身を切ることと同じだ。そんなことを思いながら一心不乱にマヤを抱いた。

マヤが気づいた時には、闇が明けようと白み始めている時だった。一瞬、周りを見回すと、ベッドには、初めての証が残っていて、その横には真澄がうつぶせになって寝息をたてていた。マヤが寝返りをうとうとすると真澄は腕枕をしようとして目を閉じたまま腕を伸ばしてマヤを自分のそばに寄せた。

あつらえたように腕枕はすっぽり入った。少し自分の腰の周りがぎこちない気がしたけれど、それが幸せのスタートなのだと、とてもうれしくて仕方なかった。

日の出とともに、真澄も目を覚まし、用意をして、二人で散歩に出た。浜辺を一緒に歩くと、砂がしゃきしゃき音をたてていた。今までなら絶対に気づかなかったことだろう。それに気づくことができるのは私たちが互いに魂の片割れで、それに巡り合えたから。

マヤは満ち足りた気持ちでいっぱいだった。紫織の存在もその朝は思い出さなかった。この時間が続けば最高であったのに…。

(第1章終わり)

コメント

タイトルとURLをコピーしました