ガラスの仮面SS【梅静020】北島マヤ平成31年4月

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新しい年号は「令和」だという。もうすぐ新時代。

昭和に生まれて、平成は女優として過ごし、周りの協力をしてもらいながら、子供たちも育てることができた。私が法律上も彼と一緒になれるとは思ってもいなかったし、まさか子供を授かるとも、それも双子を授かるとは夢にも思っていなかったので、時に「これは現実なのだろうか?」と思うこともあった。

そのたびに思い出したのは、あの沖縄に行った初日の夜、水城さんと三人でディナーをした時に水城さんが話した

信じてあきらめないこと

という言葉だった。あの夜からしばらくの間、仕事以外では彼とは顔を合わすこともなく、彼と紫織さんの入籍に関しては、沖縄で知ることになり、彼と紫織さんの短い結婚生活の間は言葉を交わすことも様子を知ることもなかったけれど、あの時の水城さんの言葉を自分でも声に出してさまざまな想いを飲みこんでいくことができた。信じてあきらめない。それだけ。

彼と紫織さんの結婚生活は1年も続かなかった。鷹宮のおうちは深い悲しみに包まれ、彼も深く自分を責めることになった。紫織さんは結婚をして、彼がそばにいても、落ち着かない日々を送っていたようだった。そして、断片的にしか入ってこない情報をさらに疑い、自分の想像で、いろいろと想いが強くなっていったようだった。

私が話すことではないけれど、自傷行為が続き、彼も巻き込まれてしまった。その結果、紫織さんは平成と言う時代を体感する前にこの世を去ってしまった。彼も負ったケガの影響で足は今でも完全とは言えない状態。それについては何も彼は言わない。30年以上たっても何も言わない。時折、遠い目で何かを見つめている時はあるけれど、言葉にすることはない。

そして、紫織さんが亡き後も彼は鷹宮のおうちとのご縁を切ろうとしなかった。速水のまま、鷹宮とのご縁を続けた。それは、決して鷹通を牛耳ろうということではなく、鷹宮の後継者のことを案じてだった。あいにく紫織さんとの間に子供を持つことはないままだったけれど、すぐに、平良さんの子供を養子にした。

思い起こすと、鈴木さんから平良さんに戻っていくことができたのもの、生活が安定するまでは、子供の養育の不安を取り除くことができたからと、後に平良さんもしみじみと話していた。彼の目の届くところで、鷹宮に尽くす子供として、二人の子供を鷹宮の養子として、平良さんの奥さんが育てていくことができたことも安心材料だったともたびたび話していた。平良さんからすると、彼には感謝しかないみたい。もちろん、平良さんも十分に、彼に応えようとしてくれ、全国規模で活躍できるアーティストを何人も沖縄から送ってくれた。

平良さんご夫婦はいったりきたりの別居夫婦だったけれど、奥さまの洋子さんは、いつも、

「あのあてのない生活から抜け出すことができたから何ともないわ。経済的な不安もゼロだったし感謝しかないわ。」

と笑い飛ばしていた。結局、平良夫婦は4人子供を授かって、二人は、鷹通にかかわることになり、残りの二人のうち、一人は大都の社員として沖縄を本拠地として活躍し、もう一人は、何故か、畑違いの文学者を目指してフランスに住んでいる。みな成人している。

東京にいた二人は、洋子さんがしっかり育てたので、荒れることなく、鷹通に役立つ人間になった。早い段階で、紫織さんのご両親の養子となった。速水の子とすることは、彼が頑なに辞退した。鷹宮の人間として育っていくことを希望し、鷹通に役立つ人間とすることを意識して養育をした。鷹宮の家には、久しぶりの子供ということで、はじめにあったためらいはすぐに消え、伸び伸びと、しかしけじめをもって育てられた。

「平成が終わる前にお式ができてよかったわね。平成ジャンプっていうのでしょう?」

マヤが、平良の長男である悟に向かって話しかけると、悟は、

「いえいえ、マヤママ、それは違いますよ。ははは。本当にマヤママは世間知らずというか、ズレているというか。平成の間、彼氏彼女がいない人を指すんですよ。僕たちは、違いますよ。なぁ。」

と新婦である里美を振り返った。里美はいくぶん緊張した様子でうんうんとうなずいた。

「またやっちゃった?私。なんとなくで話してしまうからかしら…。おめでたい日だから許してね。フフフ。」

悟が生まれてすぐに紅天女の試演となって、亜弓さんと私のどちらが演じることができるのか、決まることとなった。それからもう30年以上たっているのね。私が、紅天女を演じてから、結婚式に呼ばれると余興のひとつとして、阿古夜のセリフを含んだ祝辞をのべることを希望されるようになった。そこまで紅天女は人々に愛されるようになっている。今日も同じ。

でも、今日は、身内のようなものだから、あまり派手にではなく、簡単に済ませないといけないわ。速水は、鷹宮には籍はないけれど、鷹宮のご両親からすると、紫織さんを通じて、速水と悟兄弟は同列ということになるから。そこは羽目を外さないように、紫海にちゃんと念押しされているから気をつけないと。

「わたしはおまえさま。おまえさまはわたし。」順番は、その場で決めるこのフレーズで、お二人が末永く一緒に歩いて行けるように心を込めて祝辞をのべる。

もう平成は終わる。鷹宮のご両親もすっかり子供たちを気に入って良くしてくださっている。あのときの紫織さんが去ったことの痛みは消えないけれど癒されて新しい時代になる。

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