ガラスの仮面SS【梅静008】 第1章 もとめあう魂 (6) 1983年秋

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平良の洗いざらいの告白を聞いて外の風にあたりたくなった真澄は、あえて地下鉄で大都芸能に戻ることにした。街には日常があふれている。こういう風も悪くないと真澄は感じた。聖は平良と一緒にそのまま「佐々木」として平良の家に一緒に行き、まだ入籍していない身重の彼女とも今後のことを話してくるように向かわせた。

社長室に戻ると、水城が不在時に起こったことを簡潔にまとめて説明しようと寄ってきた。それを遮って、真澄は、水城に問いかけた。

「歌子さん、今日、来てるか?亜弓さんの目の話は誰が知っているんだ?」

「亜弓さんの目?まさか、あの通院が?マネージャーからは報告上がっていませんわ。」

「そうか。やっぱり歌子さんだな。病院はわかるのか?ウラ、取れるか?」

真澄が言い終わる前に、水城は小さな声で「失礼」と言い、受話器を取り、手短にどこかに電話をした。

真澄は、平良と話を終えたこと、そして、沖縄に送ること、お目付け役として、だれか一人沖縄に送る人選を水城に任せたいことを手短に述べた。そして、水城は、13号地は工期1か月でシアターは作れます、と伝えた。と、同時に電話が鳴り、水城が受けた。

「すぐに手術が必要なようです。もうほぼ見えない状態だろう、って。そして、手術も今やっても、その視力が3年もつかどうか、ほぼ五分五分の予後だろうと。」

「歌子さん。ここまでやってきているのは、貴女の協力なしではできないはずだ。監督ももしご存知なら止めたはずでしょう。どうでしょうか。シアターXの件も正直1か月では修復もできない。代替の場所も厳しいだろうと思います。明日、山岸理事長と話しますが。治療しましょう。亜弓さんの視力を奪うのは芸能界の損失です。大都の社長としてではなく、一人の演劇芸能関係者としても強く思います。」

社長室で真澄は歌子に遠慮なく切り込んで行った。歌子は何も言わない。横顔が美しい人だから、困惑している様子も美しく、何か空間が固まったようにも見える。

「紅天女…。なぜ、人がそこまで魅せられるのか。私もその一人です。だから、代償を、それも大きな代償を受けながらも突き進みたい亜弓の気持ちがわかるのです。ただ、何がそこまで人を惹きつけるのか。それはまだ誰もわかっていない。だから亜弓もそこに進んでいきたい。きっとそうなのだろうと思うと…。」

ゆっくりと歌子が答えた。

「女優でもあり、母親でもある歌子さんのお気持ちは私なりに理解します。しかし、この時間に関して、紅天女の恵みではありませんか?もちろん、山岸理事長、そして、理事長を通じて月影さんとも協議しますが。大都は今の段階では何もかかわっていませんが、理事長の力だけでどうにかできるものではない。ここはでしゃばらせてもらいます。」

「速水社長…。私が亜弓を説得するの?亜弓は、私と、小野寺さん、赤目さん以外、誰も目の事は知らないと思っていますよ。そして、私も腹を決めて受け入れると。そして、練習に付き合ってきているのに、何かおかしいと思うのではないでしょうか?もちろん、亜弓の目の方が大切だとういうことは、本心の本心としてはあります。」

「ふむ。小野寺さんと赤目さんねぇ…。わかりました。明日、夕方、スケジュール空いていますか?ここに亜弓さんと一緒に来てください。ボヤと延期、1か月の延期はもう亜弓さんもご存知ですよね。そこから何か話していますか?」

「ええ、もちろんです。1か月延期だから、なんとか治療をしないかともちろん言ってみました。いえ、懇願してみました…。でも亜弓は、その1か月も必死に練習するつもりで。正直なところ、もう自分のお化粧も自分ではできないくらい視力はないのです。そのままにしていて、良くなることはありません。」

「そういうことですね。では、こうしましょう。今通われている病院が目の治療では最高であることは間違いない。ただ、大きい病院すぎるので、術後もずっといるのが心もとない。そのあたりは所属事務所の大都に任せてください。万全にします。そして、今日これから、亜弓さんが治療できるように試演そのものの延期を視野にいれて、アレンジをすすめていきます。約束します。そして、明日、亜弓さんと、二人でここにいらしてください。私が何も知らないという前提です。今日、ここに来たことも言ってはいけません。」

「社長、そこまでやってくださるの…。」

「はい。紅天女には1点の曇りがあってもいけない。うちの会長も想いがある。私も。そして、日本芸能界にとっても大切な演劇である。歌子さん、あなたと同じでその理由はわからない。でも大切なものが目の前にあればそれを守る。」

「わかりました。明日、夕方、お時間いただきます。お邪魔します。何卒よろしく手配なさってください。一生の恩になります。」

「いえ、とんでもないです。あえて亜弓さんに気づかれないためにも、このまま監督にも内緒にしてください。そして…。」

「そして?」

晴れやかな顔になっていた歌子が、急に真澄の様子がかわったことをいぶかしげに感じ、真澄を覗き込む。真澄はあえて厳しい表情で言った。

「すべてのアレンジが終わるまで、小野寺さんとは接触しないでください。理由はあとで説明します。今は私のこの言葉を信じてください。」

真澄は少し眉間にしわを寄せ、顎をあげていた。もちろん、この時、小野寺は何が起こっているか全く知らない。

歌子が帰った後、おもむろに水城が真澄に言った。

「明日の午後とおっしゃったけれど、なんとなく、虫の知らせでしょうか。今夜7時から山岸理事長とお約束を取っておきました。真澄さま、立て込んでしまいますけれど、きっと今夜のほうが良いかと思います。差し出がましいことでしたらお許しください。」

「助かる。ありがたい。あと2時間あるな。ちょっと外していいか。場所はどこ?」

「はい、赤坂です。たのくらに予約してあります。」

「わかった直接行く。理事長と二人だけですよね?」

「もちろんです。では真澄さま、私は、13号地の件もあるのでこちらで控えておきます。あと、明日の朝いちばんでもお出かけになることが必要かとも思いますが…。」

「そうだな。源蔵さんに連絡はつくだろう、まず君から打診してくれないか。たのくらから戻ってもし話せるのであれば話したほうが早いだろう。」

「わかりました。ではご用事をお済ませください。そして直接たのくらにお願いいたします。」

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