ガラスの仮面SS【梅静043】速水真澄 令和元年7月

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク

あの時の自分を思い返すと、今でも不甲斐なさでいっぱいになる。進むことも退くこともできずにいた自分。

美しく、ビジネスでも強力な後ろ盾となる鷹通の孫娘を娶りながらも、割り切ることができなかった。彼女に罪はないが、自分にとっては、全くもって、魅力を感じない女性でしかなかった。俺に出逢っていなければ、もっと幸せな人生をおくれたはずだったのに。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

しかし、その申し訳なさも、よくよく考えると自己愛かもしれないとも思う。申し訳なく思っていれば、彼女の哀れな最期に対する贖罪を見ないふりができるから。

自分の心に従った結論を出せなかった俺がいけないことには変わりない。全てを捨てる覚悟ではっきりと断るべきだったということだ。

ただ、時が癒してくれることもあるものだ。今日はしみじみそう感じている。それに大きな不幸のなかにも幸福はある。彼女とご縁を持てたおかげであの家に後継者を残すことができた。血のつながりはなくても、実親からもよく含みきかされているから、鷹宮にとっては間違いなくプラスになっている。自分も速水との血のつながりはなくとも、速水を継ぐ立場になり、自分からは新しくつながる命ができている。鷹宮にとってもそのようになった。

さきほど、悟から、里美さんが妊娠したと連絡があった。結婚して半年もたたないうちだからありがたい話だ。鷹宮にはもちろん報告をしていて、年老いた義両親も大喜びだそうだ。俺も思わず涙が出たし、マヤは飛び跳ねて喜んでいた。

こうやって新しいものが積み重なっていくのだろうか。

紅天女の試演の前、長く焦がれ、やっとマヤと一度だけ結ばれた。マヤの前だけでは自分らしさを取り戻し、生きるということはこういうことか、という想いをずっと持っていた。押え切れずに結ばれたときは、新しい命も宿すことができた。しかし、そのことすら知らずに、そして、その命が流れてしまったときも、何もできないままだった自分。

本当に不甲斐ない。マヤの状況を知りながらも何もできずにいるもどかしさを、彼女への嫌悪にすり換えて、余計に彼女を冷ややかに見るようになっていたとも思う。幼稚でずるい人間だ。

あの頃の彼女は日に日に心を病んでいった。マヤと紅天女に対する誤認はひどくなる一方。紅天女保存委員会が設立されたことが、ますます彼女の思い込みを深め、猟奇的な行動に出る様子が見られた。亜弓さんとマヤ、どちらに決まろうが、マヤが紅天女を大都のものにすることを阻止するだろうから、マヤを排除しなければならない、と思い込み全く譲らなかった。

自分なりにできることはしたつもりではあったけれど、正直お手上げだった。言い訳になるけれど、忙しさにかまけて、自然と接触頻度も減り、そうなると、たまに顔を合わせても疎ましく感じ、避けるようになっていた。関わらなければならないときも機械的だったと思う。機械的だけではなく、もう少し心を寄せてあげていれば、彼女の最期はああいうカタチではなかったかもしれないと今ならば思うが、あの時はそこまで心を尽くしてあげることができなかった。

加齢とともにあのとき負った足の痛みや不自由も大きくなっている。血はつながっていないのに、父と同じ足に不自由を抱えることになって、不思議ではあるが、これは俺は一生忘れないほうがいいことなのだとも思っている。

まだ早いと言われるけれど、そろそろ現役第一線は退くことも視野にいれている。今日のように新しい命や次世代の話が入ると特にそう感じる。自分なりの引き際も考えつつ、残りの人生を過ごしていければ言うことはない。そう考えることも甘えかもしれないが、それが正直なところだ。

(令和元年、真澄67歳です…。)

コメント

タイトルとURLをコピーしました